安全登山の為に
 |
 |
|
テーピング講習
|
雪山講習
|
登山は歩く事を基本にし自然と触れ合う事の出来るすばらしいスポーツです。その為、多くの人達がハイキングをはじめ色々な形態の山登りをしています。特に中高年のパワーは目を見張るものがあります。その反面、残念ながら事故も増加してきています。
特に最近ブームの中高年の集団登山の関係者に、とりわけ肝に命じてほしい。事故の内容もほとんどが初歩的なミスが多く、技術不足や体力の無さから事故を起しているのが現状のようです。また、生涯登山として、山に親しむのは好ましいが、自然が本来持つ恐さを忘れたような振る舞いもないではない。
そこで安全に登山をするという事はどうする事か考えてみたい。
登山者だけで解決できる事、山岳会やパァーティでやる事、社会全体でなければ解決出来ない事、大きく分けて3つあります。その中で山岳会とリーダー・メンバーが心しなければならない事を考えて見たいと思います。
*遭難防止に取り組む基本姿勢
登山における事故をどの様に考え、どの様に防止対策を進めるかという事は、登山に対する考え方、登山観と密接な関連を持っています。
危険を冒す事の中に登山の本質があるという立場や、記録のためにはある程度の危険を冒しても止む得ないという考えからは、徹底して登山の安全を追求してゆく姿勢は生まれてきません。また、登山が社会や家庭からの逃避的行為として行われるとき、冒険的で刹那主義的な登山に走り易く、事故の起き易い不安定な状態を生みがちです。
また、前に登って問題なかったから今回も大丈夫だという経験至上主義も事故を起こす要因を持っています。
私たちの登山は何よりもまず人間の生命を大切にする思想を根底に据えたものでなければなりません。登山を勤労者を中心とする国民の生活、文化を豊かにするスポーツ、レクリェーションとして発展させてゆくには、登山の高い安全性は不可欠な条件といえます。
登山は人間のつくりだした文化としての長い歴史を持っています。私たちはこの歴史の遺産の中から多くのものを受け継いで新しい登山文化を発展させてゆこうとしています。このような遺産の中に登山技術もあります。登山技術とは岩登り技術、氷雪技術、生活技術、登山戦術など登山を安全且つ巧みに行う技術の総称です。この登山技術は山岳特有の自然条件の提起する行動障害と危険を安全に克服していくために生まれたもので、攻撃と防御という2つの面を持っています。今までの登山では、技術の攻撃的側面が重視され、それが中心になって体系化されてきました。私たちにはこのような登山技術を、安全を中心に据えて再検討、再編成するという課題があり、そのためには新しい用具の研究・開発も、登山の安全性とスポーツ性を高める立場で積極的におこなってゆかなければなりません。
私たちの遭難防止対策は、単に登山者個人の能力を向上させるという範囲に留まる事なく、山岳会やその連合組織の集団としての可能性を最大限発揮させる中で、追求される事が大切です。またその対策が効果を上げるためには、事故の科学的な分析に基づいた対策でなければならないという事です。
T、山岳会の日常活動での安全対策
登山の安全を確保してゆくために、山岳会の日常活動の中で留意したり、行ったりしなければならないと考えられる事項を述べます。
1、安全意識
多くの遭難の事例に当たってみると、自分達のパーティや会で事故が起こるとは全然考えてもいなかった、という場合が多い。
『天災は忘れた頃にやってくる』という警句がありますが、登山においては『山岳遭難は対策を怠ったときやって来る』という事ができます。科学的な安全対策を意識して実行しない限り、高い確率で事故はいつか発生するからです。山岳会の会員達、特にリーダー層が登山の事故をどの様に認識し、どんな姿勢で防止に取り組んでいるかが、その山岳会で行われている登山の安全性を大きく左右します。
2、教育体制
登山における事故の実態を分析した場合に、登山者教育の制度が確立されていない事がわが国において山岳遭難が頻発している原因の一つとなっている事が指摘されています。多くの山岳会組織においてもこの問題は未解決のまま残されています。何をどの様に教えてゆくかという一定の方針を持って教育活動を行っている会が少ないばかりでなく、たとえそれが行われていている場合でもリーダー層の厚みやその力量、会の構成員数などによる限界があるからです。
あるルート・コースの登山をするパーティのリーダーまたはメンバーはどの様な能力・知識・経験を持っている事が望ましいかという基準を明らかにし、そのような能力、知識をどの様に段階的、系統的に教育や学習、登山経験の蓄積の中で身につけてゆかせるかという教育カリキュラムを持って活動してゆく事が必要です。基準は大ざっぱなものでなく例えばザイルの結び方ならばその名称まであげるほどに詳細にして、どの部分はどこで教えたり習得させ、どの部分は自己学習で勉強させるかを明確にし、個人別に必ずその達成度が会として把握できるようにしておきます。
3、安全管理と山行規定
登山における事故は、その行為者が注意をして行えば起きないといった性格のものではない。登山者は自分が危険であると判断した事柄に対してしか防御処置を取らないし、またその防御能力も登山者側の条件によって異なってきます。登山の安全性を高めるには、登山者としての能力と知識の水準の向上に応じて、安全に対処できる範囲で山行のグレイドをあげてゆかなければなりません。しかし自分達のパーティがあるルートを安全に登る能力があるかどうかは、必ずそのパーティ独自で判断できるとは限らない。特に経験も浅いメンバーによるパーティの場合にそうした事がいえます。また経験のあるメンバーが参加した企画でも、手落ちや不備、無理がないとはいえません。従って山岳会の中で最も経験も深く能力もあるメンバーを含んだしかるべく機関で全ての山行計画を点検する制度が必要となります。こうした場合に判断の基準が客観的に確立されている事が望ましい。
先に述べた教育体制も安全管理体制の中の一環としてみる事もできます。その他に個人・共同の装備・用具の定期点検と補修・整備・廃棄などや、新しい用具の安全点検なども取り組まなければならない重要な事項です。さらに会活動の中にある事故に結びついてゆく要素の定期的または随時の総点検と改善も事故防止の教育・啓蒙と結び付けて行う事が大切です。
以上のような登山の安全管理の体制と活動を規定したものが山行規定であるわけです。山行規定は山行活動と直接結びついた部分に限定された場合の名称である事が多く、目的、山行の種類、山行計画書及び山行報告書の書式とその提出義務、審査機関とその権限などから構成されています。さらに会によっては単独行の禁止や登山本部の設置をいれているところもあります。このような事項の他に先に述べた装備、点検、健康管理、山行経験の量的蓄積と質の向上の対応基準及びそれに必要な個人別山歴、トレーニング状況、修了した登山教育の課程などのカード化とそれを利用した包括的な安全管理を推進する事が望まれます。
U、山行と安全対策
ここでは個別の山行が企画、準備される段階から、終了して総括するまでの間に、山行の安全のために、守らなければならない事項について述べます。これらは山行パーティ自身による安全の自己点検や、山行指導部及び遭難対策委員会による山行の安全点検の対象となる事項でもあります。
1、山行の企画・準備の段階
(1)全般的事項と戦術
(a)安全意識
安全意識の重要性についてはすでに述べましたが、再度それを強調しておきます。
山行の企画から終了までの全課程を通じて常に危険に対する警戒心を働かせ、適切な安全処置をとることを忘れてはなりません。
(b)山行目的の明確化
山行目的が明確にされ、パーティの全員がその意義をよく理解している事は、共同意識を高め、チームワークを強める上で重要です。ここで言う目的は目標とする山や登山のルートの事ではなく、なぜそれを登るかという目的の事です。
(c)目標
登山目標の決定には登山に参加するメンバーが先に決まっていて、そのメンバーの力量や登山目的から目標が決定される場合と、目標が先に決まっていてそれにふさわしいメンバーが集められる場合があります。いずれの場合にも、山の高度、気象条件、地形、エスケープルートの有無など登山を複雑、危険にする要素によって決まる登山のコース、ルートの難易度が登山するパーティ側の総合的力量でもって安全に克服できる範囲内になければなりません。これらの判断はパーティのリーダーや会のリーダー層の判断に委ねられており、それ故登山の安全性の質は登山の企画段階から、リーダーの力量に大きく依存する事になります。
(d)単独行について
単独行という形式の登山にどの様な意義を見いだすかについては意見の別れるところです。ここでは安全性という点からのみ考えてみる事にします。一般的に複数メンバーでパーティを組んだ場合に取り得る安全処置が単独では取れない事も多く、事故発生後の対応能力という点でも、複数メンバーの場合に比べ劣ります。それ故岩登り、沢登り、積雪期登山など単独行の危険が高いジャンルでは、原則として単独行は禁止すべきです。
(e)登山コースに関する知識
登山コースの選定及び決定後に具体的な行動計画の立案の資料として登山コースに関連した情報を収集します。ガイドブック、過去の記録、他の登山者や地元からの情報、地形図偵察や現地調査などによりコース及びその周辺の概念の把握、コース中の危険、困難な個所等々調査などを行います。
<夏期の一般登山における調査項目>
◎コース周辺の山域の概念
◎登山道の整備状況
◎道標の有無
◎踏み跡の有無
◎地図上に記載されていない林道や廃道
◎途中からのエスケープルート
◎小屋の位置、収容人員、管理人の有無、開設期間
◎水場やテントサイトの位置
◎不注意、過失、技術の未熟などから転落を起こし易い地形
(岩場、やせ尾根、雪渓、ガレ場)
◎視界のきかないとき迷い易い地形(支尾根、平坦な尾根やピーク)
◎岩場かガレ場などでの鎖、梯子などの設置状況
◎野獣や動物の被害を受ける可能性(熊、まむし、蛭、蚊)
◎コースの各部分の標準的コースタイム
<無雪期岩登りを含むコースの調査項目>
アプローチや帰路、小屋利用やテントサイトについては一般に準じる。
◎ルートの平均傾斜
◎ピッチ数
◎各ピッチの構造と技術グレード
◎安定した確保場所の有無
◎ルートファインティング上留意する箇所
◎テラスの位置と大きさ
◎岩質
◎岩層(順層、逆層、クラックの構造)
◎残置ハーケンの量と必要ハーケン数
◎登攀の標準所要時間
◎エスケープルートの有無
◎途中より下降する場合の問題点
(f)任務分担
登山目的と参加メンバーの力量を考慮してパーティ内の役割分担をおこない、リーダーを中心に計画の立案と準備を進める。リーダーは出来れば登山予定のコース・ルートのもつ難易度より高い難易度のコース・ルートの経験を持っている事が望ましい。また同じくらいの力量のメンバーで構成されるパーティの場合は、リーダーとメンバーの力量にはっきり差がある場合とは異なったパーティ運営がされねばならない。
(g)行動計画
登山予定ルートの調査資料を参考に、登山形式、使用日程、1日単位の行程を決定する。この際には、単に時間的なスケジュールだけでなく、危険、困難が予想される箇所での安全対策の取り方なども確認していく。日程及び1日の行程の算出は負荷量、メンバーの体力・技術、山の季節的コンディションの違い、小屋の位置、テントサイトやビバーク場所による制限など考慮して決めるが、ある程度余裕を持たせる事が大切である。
(2)装備計画
(a)持参する用具・装備の種類、規格、数量は山側の自然条件とルート・コースを登る戦術によって決まってくる。必要なものは全て忘れずに、しかも余分なものは一切無いというのが理想である。
(b)使用予定の装備・用具の調達は、消耗度・破損箇所を点検したり補修・整備・更新をする時間的余裕を見て行う。山行に出発する当日、駅で手渡しするのは、こうした時間的余裕がないという事の他に、万一の手違いで渡す事が出来ない場合も起こるから止めるべきである。
(3)食料計画
(a)栄養、カロリー、軽量化、調理時間、メンバーの嗜好、バラエティなどの要素
のうち何に重点をおいた食料計画をたてるかという事は、山行の目的や戦術との関
連で決められる事である。短期間の岩登りなどでは、軽量化や調理時間の節約など
に比重をおき、山行中必要とする栄養やカロリーは山行中の食事から充分供給でき
なくても、山行にいく以前に摂取して蓄えておくという形で解決できる。これが長
期間にわたる登山では、使用するカロリーや疲労回復に必要な栄養は、登山中の食
事から供給されるものでなければならないし、変化を持たせて飽きをこさせないと
いう事も重要な要素となる。
(b)事故、悪天などのため登山日程が延びた場合を考慮し、予備食を準備する。
(c)事故や予定の行程通り行けず、フォストビバークに追い込まれるといった非常
の事態の時に備えて、調理せずに食べられる、自分の好みにあった食料を各自が持
参する。
(d)全食料の一部は加熱、加工をせずに食べられるものとする。
(4)気象について
(a)山行の行われる季節の天気変化の一般的パターンと主要なバリエーションを知
っておく。
(b)山行の行われる山域の局地気象の特徴、その季節でのその地域の最低・最高気温、平均気温の値を知っておく。
(c)その年の日本付近の気象の特性を調べておく。
(d)山行に出発する以前から気象通報により天気図を作成したり、新聞天気図を見て気象変化に注意し、登山期間中の気象条件を予想する。
(5)健康管理と体力、技術トレーニング
(a)規則正しい日常生活を行い、暴飲暴食を慎み健康の維持に留意する。
(b)日常的な基礎体力づくりの上に、必要とあれば山行に応じた体力つくりのトレーニングを行う。
(c)系統的な技術向上のためのトレーニングの上に、必要とあらば登山対象に応じた技術トレーニングを行う
(d)定期的健康診断を受ける。
(e)脈拍、食欲、睡眠、疲労感などを表として、体調の自己診断を行う。
(6)連絡体制と救急、救助体制
(a)登山期間中は登山本部を設置し、登山パーティとの連絡は全てここに集中する。
登山本部はパーティから事故発生の連絡を受けた時は、予め打ち合わされた方法で、
救急叉は事故処理の活動を開始する。
(b)登山パーティと登山本部間及び合宿などのように、多数パーティに分散して行動する場合は、パーティと現地本部(BC)間、登山本部と現地本部間の相互の
連絡の手段・方法を決めておく。
(c)長期にわたる登山では、定期的な連絡を行う体制を整えておく。
(d)下山連絡は、電話の使用できる地点まで下山した時点で、第一報をするように
する。下山して帰ってきた翌日に連絡するなどは持っての他である。
(e)下山連絡予定時間を過ぎても、パーティよりの連絡がなかった場合、登山本部
はただちに救助・捜索活動を開始する。この点からも、下山連絡時間の設定と連絡
の厳守は必要な事である。
(7)登山計画書
登山目的にそって、いくつかの候補となるコース・ルートを選び、さきに述べたような調査と検討を行い、その中から目標を決定し計画を具体化し、それを計画書としてまとめる。計画書は次のような事項から構成される。
◎目的
◎期間
◎山域と目標
◎メンバー表
◎任務分担
◎行動計画と日程表、行程表
◎コース概念の説明とコースの中で危険・困難が予想される箇所での行動に際して取られる安全処置
◎天候悪化や事故の場合の行動基準
◎装備表
◎献立と食糧リスト
◎登山本部と連絡体制登山計画書が出来上がったら、それを遭対部に提出し承認を受け、メンバー各自とその家族、登山本部に各一部とっておき現地へも持参し、地元の遭対本部へも一部提出しておく。
2、山行の実施段階
(1)自然条件に基づく危険の予知と対策
(a)天気図と観展望気により気象の変化の予想をたて、悪化が予想されるときには、悪化の速度とその程度、今後当面するコースの特徴、パーティの悪天への対応能力等を考慮して、行動の続行、待機、安全圏への避難などのうちから適切と思われる行動を選ぶ。
(b)危険叉は困難を予想される箇所に直面したら、状況を観察し、パーティの持参
する用具、装備、メンバーの技術や体調などのコンディション、以後の気象変化の
予想などを考慮し、安全に克服できるかどうか判断する。その結果、予定通り行動
するか、ルートの変更や退却などの行動予定の変更を行う。
(c)ビバークサイトやテントサイトの選択にあたっては、落石・増水・雪崩・強風
などの危険はないかチェックする。休憩場所の選択の際も同じ様な注意をする。
(2)登山パーティ側の条件の把握と対策
(a)リーダーはメンバーの疲労度・健康状態を観察し、メンバーからの報告によっ
て把握する。そのためにメンバー各々の食欲、歩き方や遅れなどに注意し、睡眠の
状態、脈拍、気分などを報告させたりする。その結果によっては荷物を軽減させた
り、適切な配慮と安全処置を多重に取って行動したり、予定を変更したりする。
(b)特にリーダーはメンバーの心理状態に注意し、メンバー相互の感情のもつれや
軋轢など、チームワークを乱す要素に気づいたらそれを解消するようにする。状況
が悪化してゆく中で経験の浅いメンバーなどは恐怖心にとらわれがちで、これがパーティの対応能力を弱める事になる。困難な状況の中でも出来るだけリラックス
した気分にさせるような雰囲気つくりに留意する事も大切である。
(c)パーティ内の弱点を持ったメンバー(体力的に弱い、技術的に未熟、疲労した
り体調が悪い、そそっかしい、利己的)には特別の安全処置を取ったり、注意を払
いながら行動する。
(d)安全のための用具の使用は、必要と認めたら、短い距離だからとめんどうがっ
たり、他人がやっていないからというので見栄や外聞にとらわれず、積極的に行う。
(e)困難な箇所の後に続く比較的安い箇所の通過の際や、登頂後の下山路など、精神的に弛緩して、うっかり、ぼんやりしてミスを起こし易い。リーダーはこうし
た状況の時には、メンバーの注意を喚起する指示をする。
3、山行終了後の総括の段階
(a)山行が終了したら反省会を持ち、参加者がそれぞれの立場から、山行の企画・準備・実施の各段階で事故に結びつく可能性があったと思われる事柄を全てだしあって検討する。この分析は根源にさかのぼって追求し、何を改善したら良いか対策を明らかにし、それを実施する事により会活動や山行活動の中の事故に結びついてゆく要素を取り除き、登山の安全対策をより有効なものにしてゆく。
(b)大小を問わず山行中に起きた事故については、それに関連していると思われるあらゆる事柄を調査・分析しその原因となった諸要素を明らかにし、同じ原因の事故が再発しないよう対策をたてて実施する。
|